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IIJと地域DX 総務省 平時・災害発生時における公共安全モバイルシステムの活用

IIJ.news Vol.189 August 2025

本稿では、総務省が導入を進めている「公共安全モバイルシステム」の
能登半島地震での活用を含む取り組みについて同省に取材した内容をダイジェスト版でお届けする。

執筆者プロフィール

総務省 総合通信基盤局 重要無線室
室長

中川 拓哉 氏

課長補佐

福川 優治 氏

石貫 真一 氏

総務省では、災害時の情報共有を目的に「公共安全モバイルシステム」の導入を推進している。これは、平時には通常の携帯電話として利用し、災害発生時には消防・警察・自衛隊・自治体など各機関間の通信を確保するための仕組みとなる。既存の携帯電話技術を活用することで、公共機関に求められる高いセキュリティや冗長性・可用性を備えつつ、コスト抑制も図られている。

2024年1月の能登半島地震では、実証実験中の端末が現地の救援機関に貸与され、優先通話、マルチキャリア対応、リアルタイム位置把握などの機能が実際の現場で活用された。

能登半島地震において連絡手段の確保と情報共有に貢献

中川:
2024年1月の能登半島地震では、実証中だった公共安全モバイルシステムの端末が、消防・警察・自衛隊などに貸与され、連絡手段の確保と情報共有に大きく貢献しました。
石川県内の全(11)消防本部では、行方不明者の捜索や救急活動において、警察など関係機関からの情報を一斉同報したり、現場の状況をスマートフォンで撮影・共有したりするなど、実践的に活用されました。
金沢市消防局では現場の救急隊と本部間の報告・指令のやり取りに利用され、先行部隊からの映像共有により、後続の救急隊が迅速に活動を開始できた事例も報告されています。
自衛隊の現地活動部隊にも端末が貸与され、輸送・給水・入浴支援・遠隔医療などの任務において、アプリを通じて指揮本部と部隊内の連絡・情報共有に活用されました。
福川:
私が発災後にリエゾン(災害対策現地情報連絡員)として現地入りした際、石川県奥能登農林総合事務所の方から「山間部など通信環境が限定された地域においてマルチキャリアの良さを実感した」という話をうかがいました。通信事業者による基地局の応急復旧段階では、キャリアごとに復旧エリアが異なるため、ネットワークが冗長化された公共安全モバイルシステムの有用性が確認されました。また、携帯電話と同様に基地局の電波が届く範囲であれば遠隔地との通信も可能なので、トランシーバーのように距離を意識する必要がない点や、スマートフォンのアプリでリアルタイムに位置情報を把握できる点も評価いただきました。
このように実証端末の貸与は、現場の即応性と情報共有力を高めるうえで大きな意義がありました。

災害対応機関が情報共有するための有力な通信手段

中川:
公共安全モバイルシステムは、平時には通常の携帯電話として利用しつつ、災害発生時には関係機関の相互通信や情報共有に用いるなど、利用シーンの拡大と円滑な災害対応を両立しています。世界的に標準化された携帯電話技術を活用した共用化により、コスト低減も図られています。
従来、有事には災害対応機関同士の標準的な連絡手段が存在せず、災害対策本部に関係者が集まって情報を共有するといった手法が主流であったため、時間がかかっていました。こうした課題を受けて2018年、総務省の懇談会で公共安全LTE導入の必要性が提言され、2019年度から「公共安全モバイルシステム」として機能要件の検討や実証実験、安定性・信頼性向上のための対策など、災害対策関係省庁や通信事業者を交えた検討が重ねられました。

この取り組みに参画したIIJは、2024年4月から対応サービスの提供を開始した。災害対策を担当する省庁が利用主体となるため、災害時優先電話として発災時などの通信混雑時にも他機関と円滑な連絡・情報共有を行なうことができ、平時には公用携帯電話として使用可能にすることで可用性および汎用性を拡張・確保している。また、各機関が独自に開発したアプリを活用できるようAndroidとiOSの双方に対応し、既存の携帯電話ネットワークを活用することで導入・運用コストを圧縮している。

公共安全モバイルシステムの活用時の留意点

IIJは、公共安全モバイルシステムの機能要件に対応した「IIJ公共安全モバイルサービス」を提供しており、災害時優先電話やマルチキャリア対応により冗長性を堅持し、専用設備を敷設して通信混雑の緩和を図るなど、災害対策機関のニーズに応える取り組みを進めている。

中川:
能登半島地震のような大規模災害では、道路や電力が寸断され、携帯電話ネットワークの復旧に時間がかかるケースが想定されます。このため、公共安全モバイルシステムに加え、衛星通信や簡易無線など、複数の通信手段をバックアップしておくことが重要です。ただ、多様かつ十分な通信機器を完備しておくことはコスト的にもむずかしいため、総務省の地方総合通信局では災害対策用の移動通信機器を一定数備蓄しており、災害対策機関に万が一、不足することが予測される場合は、地方公共団体を通じて能動的に支援できるよう備えています。
なお、現状の公共安全モバイルシステムの優先接続は音声通話に限られ、データ通信には適用されないため、平時からテザリングやアプリ利用に関する制約を把握するとともに、各通信手段の特性を理解しておく必要があります。

* https://www.iij.ad.jp/biz/public-safety/

IIJのサービス展開

中川:
2024年4月から公共安全モバイルシステムの本格的な実装が始まりましたが、災害発生時における機関内外との連絡・情報共有の重要性が高まっていることもあり、地方自治体などから多くの問い合わせが寄せられています。
石貫:
IIJのWEBサイトには公共安全モバイルシステムに関する「よくある質問」などのコンテンツが豊富に掲載されています。内容もわかりやすいので、弊省に同システムに関する問い合わせが寄せられた際には、そちらを参照いただくよう案内することもあります。
中川:
今後、公共安全モバイルシステムの利用が進めば、多様なニーズが出てくると予想されます。総務省としても政策的・技術的にできることがあれば、挑戦していきたいと考えています。
能登半島地震では、実証段階だった公共安全モバイルシステムが実際に活用され、IIJから迅速な支援や調達対応を受けることができました。その後も回線自体に大きなトラブルもなく安定的に使用できており、IIJの技術力を実感しています。引き続き、いざという時に頼りになるインフラ事業者として、安定したネットワークの運用に期待しています。

本記事は2025年2月に取材した内容を再編集しています。記事内のデータ・組織名・役職などは取材時のものです。


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