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IIJと地域DX 北海道有珠郡壮瞥町 農業の多岐にわたる課題をICTで解決

IIJ.news Vol.189 August 2025

ここでは、北海道有珠郡壮瞥町がIIJのスマート農業システムを導入して実施した課題解決に向けた取り組みを紹介する。

地域の課題

北海道有珠郡壮瞥町は洞爺湖の東側に位置しており、水稲・畑作・果樹・畜産など多種多様な農業を営んでいる中山間地域です。近くに有珠山や昭和新山などがあり、生活全般に温泉熱を活用しています。近年は人口減少・鳥獣被害の拡大などに直面しており、自治体のみならず地域住民とともに、課題解決と持続可能な社会の形成に取り組んでいます。

壮瞥町は左記のような課題解決に向けて、IIJのスマート農業システム「IIJ MITSUHA」を活用して、ソフト・ハード両面から対策を講じました。

  • 圃場や水利施設が点在し、維持・管理に負担を感じている。
  • 人口減少による深刻な担い手不足。
  • エゾシカによる果樹の食害。
  • 狩猟者の高齢化・後継者不足。

さらに、地域住民と対話を重ねていくなかで顕在化した課題もありました。

  • 町内に気象センサがなく、隣町のAMeDASを参考にしていたが、予報と実際の状況とが乖離することがあり、町内で観測体制を整備すべきであるという声があがっていた。
  • 北海道では珍しい温泉熱を活用したハウス栽培は温度管理がむずかしく、ハウスごとの環境を正確に把握するためのスマート機器の導入が求められていた。
  • 町の重要インフラである温泉ポンプの稼働状況の確認に多くの人手がかかり、ICTを活用した省力化への期待が高まっていた。

課題解決に向けた取り組み

令和3〜4年度にかけて、機器類の整備計画を策定しました。まずソフト面では、町長以下、産業振興・総務・建設など複数の課が連携する体制を整え、部署の垣根を越えた意見交換を促すことで、横断的かつ柔軟に課題に対応できるようにしました。また、生産者を含めた膝詰めの議論を重ねて現場の声を反映させました。ICT機器の導入前には試行調査を行ない、使用感や課題を共有しながら、実情に即した計画を策定しました。

次にハード面では、町内にLoRaWAN®ゲートウェイを2箇所設置し、通信環境の試行調査を行ないました。屋外ではソーラー発電システムを活用することで厳しい気象条件下でも安定運用を実現し、加えて、気象観測システムを町内に新設して、温度・湿度・風速などのデータをリアルタイムに取得できるようにしました。さらに、温泉ポンプや集落排水ポンプにセンサを後付けし、遠隔から稼働状況を監視可能にしました。水田には水位・水温センサを導入し、見回り判断の遠隔化とデータによる水稲栽培の実現を図りました。鳥獣害対策には罠センサや静止画カメラを導入し、見回り頻度を減らしつつ、罠の設置数も増やしました。ハウス栽培では、温湿度や二酸化炭素濃度などを測定する環境センサを設置し、遠隔からの管理を実現しました。試行調査の機器を整備したのち、1年間の調査では十分な評価を行なうことがむずかしかったため、最終的には令和5~6年度の2カ年を延長することで、より丁寧な計画を作り上げました。

水田センサ

各水田にセンサを設置して、水位や水温を遠隔からでも監視可能にした。毎日行なっていた見回りは、週1回程度に削減され、壮瞥穴による異常も早期に発見・対応できるようになった。

気象観測システム

町内に気象観測システムを新設することで、より正確な状況把握が可能になった。測定項目は、温度、湿度、風速、雨量ほか、用途に応じて拡張可能。

整備した情報通信環境

LoRaWAN®ゲートウェイを高台の研修施設と山間部に設置することで、湖畔の対岸エリアや農業団地にも電波が届き、効率的かつ広範な通信環境が整った。水田・水路の水位センサ、気象観測システム、ハウスモニタリング装置などのデータを活用しつつ、鳥獣獲得検知センサや罠の遠隔監視カメラを導入することで、自動化と省力化の効果を確認した。

IIJの役割

令和3年度の農林水産省の補助金に応募した壮瞥町は、他地域における実績と高い技術力を有しているIIJに支援を依頼。それを受けてIIJでは、現地調査や生産者へのヒアリングを重ねながら、課題の整理とICT活用の方向性を明確化し、通信技術の知見を活かして、プロジェクトマネジメントやサポート体制の構築を支援しました。

そして令和3年度末、計画策定事業が始動し、ワークショップを通じて生産者の声を反映した試行調査を実施し、その後も定期的なミーティングを重ねながら、町・都道府県・国とも連携して施設整備事業の本格化に向けた取り組みを令和6年にかけてサポートしました。

今後に向けて

令和7年度はこれまで策定してきた整備計画にもとづき、情報通信網の本格整備を予定しています。その予算は農林水産省の補助金を充てる方針です。

令和6年度まではLoRaWAN®ゲートウェイ2台で試行調査を行なってきましたが、今後は5台に増やして、町の中心部だけでなく山間部にも通信が届くようにし、通信網を活用するための各種機器も導入予定です。さらに令和8年度以降は、通信網の活用を町内全域に広げるために地元やJAなどへのPRを強化しながら、利用者の拡大を図っていく計画です。また、蓄積したデータを活かしたデータ駆動型農業の実現など、次のステップを見据えた活動も進めています。

本記事は、2024年3月までの導入事例を再編集しています。記事内の名称やデータなどは当時のものです。


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